前回に引き続き、肥料について書いていきたいと思います。
今回は、最近話題に上がってきている硝酸態窒素についてです。
つまり、硝酸態窒素はとにかく避けるべきものだ、という風評を受けてその是非を考えたいと思います。
<硝酸態窒素を悪者にしたのは誰か>
では、硝酸態窒素が風評にあっている原因は何かをまず書いてみたいと思います。
それには大きく二つのことが言われています。
ブルーベビー症候群と牛の大量死です。
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ブルーベビー症候群
赤ちゃんに裏ごしした法蓮草を離乳食として与えたところ、赤ん坊の顔が真っ青になって亡くなってしまった。
この原因が法蓮草に大量に含まれていた硝酸態窒素だとされたのです。
牛の大量死
干ばつが続いた北海道で、牛が食べる牧草が育ちませんでした。
そして少しの雨が降った後に牧草は回復して、牛たちが牧草を食べられるくらいに育ちました。その牧草を牛が食べたあとに大量に牛が死んでしまいました。
この原因も硝酸態窒素だとされました。
しかしこれらの調査は続けられて認識が変わってきています。
<そもそも硝酸態窒素とは何か>
窒素の循環イラストーWebImagesより
硝酸態窒素とは、窒素化合物が酸化したもの。
窒素が硝化菌の働きによって酸化された状態になるので硝酸態窒素と言っていると思っていてください。
植物の生長に窒素は欠かせませんが、窒素のままでは吸収することができません。植物が吸収できる形に窒素が変化したものが硝酸態窒素です。
つまり、硝酸態窒素は、植物の生長には絶対に必要なものなのです。
<研究者の反対意見>
まずはブルーベビー症候群ですが、この原因は法蓮草に含まれる硝酸態窒素ではなく、不衛生だった地下水に原因があったと言われています。
つまり、硝酸態窒素が原因ではない、という調査結果です。
厳密にいえば、硝酸態窒素だけが原因ではない、となります。
牛の大量死については、
雨が降らなかったことで施肥した肥料の窒素分が水に流されずに表土に蓄積されていました。
また、植物は光・温度・水などの条件が整えば際限なく栄養を吸収してしまうので、雨が降ったとたんに大量の窒素肥料(硝酸態窒素)を吸収しました。
その硝酸態窒素が大量に含まれた牧草を大量に食べたことによって、牛は調子を悪くしたのです。
その悪くした原因は、体内に取り込まれた硝酸態窒素が還元されて亜硝酸に変化し、その亜硝酸がヘモグロビンと結合することで酸素運搬機能が低下して、酸欠状態で死んでいった、とされています。
これに対しては、まず牛と人間の体内環境を一緒に考えるべきではないという意見と、
硝酸態窒素は、ガンを抑制する、という意見もあります。
<硝酸態窒素が変化する>
では、一般的に悪者にされている硝酸態窒素ですが、植物体内でずっと同じ状態でいるわけではありません。
体内に吸収された硝酸態窒素は、光合成によって亜硝酸態窒素に変わります。
さてここで疑問です。硝酸態窒素と亜硝酸態窒素、どちらも植物にとっては必要な要素です。
では人体への影響は?
牛の件でもみたように亜硝酸窒素はヘモグロビンと結合して酸素供給能力を低下させます。
では悪者扱いされるべきは、硝酸態窒素ではなくて、亜硝酸態窒素、ということになります。
亜硝酸態窒素が人体に悪さをするかどうかも知っておく必要があるはずです。なのに硝酸態窒素だけが取り上げられるのは偏っています。
つまりは、硝酸態窒素か亜硝酸態窒素かの違いによって対策が変わってくるということです。
<化学肥料と有機質肥料や、無施肥に危険性の違いはあるか>
ないと思います。
窒素肥料を与えることによって硝酸態窒素が増えるという話をしました。
だから無施肥(肥料を与えないこと)の場合は硝酸態窒素の問題はない、と思いがちですが違います。
硝酸態窒素は、硝化細菌の働きによってつくられます。
ですから地中に硝化細菌がいるかぎりは硝酸態窒素は存在します。
無施肥栽培では、硝酸態窒素の蓄量は少ないと思いますが、自然界の窒素量が大量に含まれた畑もあり得ます。
ですので無施肥栽培の野菜だから硝酸態窒素の不安はない、というわけではありません。
では化学肥料と有機質肥料との違いはいうと、
化学肥料は水に溶けることですぐに植物の根から吸収できる状態になります。その特性によって、際限なく養分を吸収してしまう植物は、硝酸態窒素もたくさん吸収してしまいます。過栄養の状態です。
有機質肥料でも一緒です。
植物に必要な栄養の量があります。それを超えてしまったら過栄養になってしまいますよ、ということです。
いかがでしょうか。
硝酸態窒素の含有量が極端に多いというのはよくない、という意見はだいたい一緒ですが、危険視すべきかどうかは研究者の間でも意見が分かれている問題です。
硝酸態窒素は問題だという人、問題でないという人がいる現状では、消費者(この場合は生産者も消費者となる)は、情報のアンテナを張っておくことが必要です。
生産者としては、その情報をもとに野菜を買ってくれる人に安全を提供する努力をします。
このように、科学の進歩によってわかってくることがたくさんあります。
農家として新旧ともに情報を公開していきます。
他にも記事を書いていきますので一つでも参考になりましたらと思います。
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